2002/05/19
ワンダフルの話2
続きです。
かつてペドロ=マキシムスの妻がバレンティニアヌス三世に奪われたという経緯がありますので、どっちもどっちなのですが、夫を殺害した相手と結婚することになったエウドクシアはホノリアと同じようなとんでもないことをしでかします。時代を少し遡ります。ベルリンのあたりにヴァンダル族という民が住んでいましたが、五世紀初頭に中国の匈奴のフン族がロシア経由でヨーロッパに向けて西進するという事件がありました。当時、そこにはゴート族が住んでいましたが、フン族からの圧力に耐え切れず、国を追われます。ゴート族は西進しますが、その結果今度はヴァンダル族が圧力を受けてイスパニアに移動することになり(これら一連の動きをゲルマン民族大移動という)、さらに圧力が強まったために西ローマ帝国の権力闘争につけ込んでジブラルタル海峡を渡ってアフリカを奪い、カルタゴにヴァンダル王国を建国しました。建国からして西ローマをだまくらかして奪うという、やばい民族なのですが、屈辱に震えるエウドクシアは、このヴァンダルのガイセリック王に助けを求めてしまうのです。もともといつかローマを奪おうとたくらんでいたガイセリック王は大義名分を得て、大群でローマ市に攻め寄せました。勝ち目がないことを悟ったローマ大司教レオは、「ローマ市民を殺したり建物を焼いたり」しないように懇願しますが、ガイセリック王はこれに対して、二週間に渡る大略奪(屋根板まで剥ぎ取り、去るときに一人として処女は居なかったと言われている)を行い、「約束を守った」とうそぶきました。そして、エウドクシアや小エウドクシアを含めた女性達を連れ去ってしまいました。
これが事実上の西ローマ帝国の終焉となるのですが、この凄まじい略奪がヴァンダリズム(Vandalism:文化・芸術の破壊、蛮行)という言葉とともに、ワンダフル(凄い、凄まじい)という言葉を生むことになりました。そういうわけで、ワンダフルを素晴らしいという意味で使われているのを見ると、ナイスガイと同じような違和感を感じるわけです。


 

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