2000/12/01
記憶力の話
記憶は人によって種類に得手不得手というのがはっきりしているようです。例えば私の知っているある人は自分が読んだ本はその登場人物の名前から始まって一字一句ほぼ間違いなく記憶する人もいます。ある作家は自分の書いた原稿を編集者に無くされてしまったと聞いて、たった数時間でまったく同じものを書き直したそうです。のちにその原稿が出てきたため比較したところ、誤字までまったく同じだったそうです。そのレベルでなくてもたとえば、自分が出会った人の服の色からアクセサリーまですべて覚えているという人もいます。
私もこの十年ほどならほぼ間違いなく再現できる記憶能力があります。耳の記憶能力です。私は誰かとした会話をほぼ間違いなくすべて記憶しています。もちろん何月何日の何時という細かいところまでは覚えていませんが、誰とどういう会話をしたかに関しては間違いなく覚えています。これはなんなんでしょうか。私には原因がわかりませんが、一つわかっていることは私はこの耳の記憶のため、それ以外の記憶能力をかなり失っているということです。例えば、今会ったばかりの人の服の色を覚えていません。今読んだ本の主人公の名前を覚えていません。道は三回曲がればもう二度と辿りつけませんし、新しい道を一本覚えると他の道を一本忘れます。自分が一年前に書いた原稿を見させられて書いたかどうか覚えていません。実際、昨日書いたテーブルトークの内容すら危ないのです。また、この音の記憶のために音そのものに対する容量も少なくなっているようです。音楽を聴いてもその音楽を覚えていません。それがクラシックだったのかロックだったのかの区別もつかないのです。私が音楽を聴くためにはきちんと聴くぞ、という心構えをしないと駄目なのです。
この能力、便利なようで不便です。何せ忘れることがありませんから。例えばあなたが十年前に私に浴びせた悪口を今でも覚えていると言ったらどう思いますか?、誰に何をされたのかその相手が忘れていても覚えているというのはかなり困ったことなのです。


 

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