2000/08/09
農薬の話
世の中に安全な農薬というのは存在しているのでしょうか。例えばここにキチンの阻害剤を用いた農薬があったとします。キチンというのは主に節足動物の外骨格を形成する物質で、この薬品を使うとキチンが組成できず、ふにゃふにゃの虫が出来上がります。もちろん体重を支えられませんから害虫は死に絶えます。人間や鳥や魚などはキチンを使いませんからたとえ一升瓶で飲んでも死ぬことはありません。さて、この農薬は本当に安全なのでしょうか。この農薬を実際に使用したらどのようなことが起こるかを考えてみましょう。
この農薬はもちろん害虫だけに特異的に効くわけではありませんから、益虫などもまとめて殺します。まず蜜蜂業者が痛手を被るでしょう。しかし、直接的な関与よりも生態系の破壊のほうがもっと恐ろしいのです。虫培(花粉を蜂などの虫に運んでもらう)している植物が壊滅します。虫を食べて生きていた魚、鳥などの餌がなくなります。雑食の鳥なら狙うのは栽培されている食物になるでしょう。鳥害が発生します。今度は鳥にだけ特異的に効く薬品を投与するのでしょうか。食べ物が無くなって死んだ動物の死骸は食物連鎖の原理から本来ならゾウムシやアリ、ハエなどが分解します。これらの生物もまた虫です。彼等もまたこの薬品の影響を受けます。結局分解されずに腐り果てるに任せることになります。この虫たちが食べていた微生物が大量発生して食物にダメージを与える可能性もあります。さらにこの薬品が川を流れ海にたどり着いたときにまた新たな問題が発生するでしょう。エビやカニも節足動物なのです。結局この薬品を使えば昆虫だけではなく、それを餌とする鳥なども死に絶え、植物は子孫を残せずに枯れ、魚も壊滅。エビやカニの養殖もまた壊滅的な打撃を受け、食われることのなくなった水草や藻は大量発生して酸素を消費し赤潮を引き起こします。残るのはまさしく死の世界です。
安全というものの基準は非常にあいまいですが、人体に直接投与して安全であることが必ずしも安全でないことはおわかりいただけたでしょうか。


 

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