2002/10/14
もう一つのノーベル賞の話
先日書いたノーベル物理学賞とは別に、ノーベル化学賞も日本人が受賞したというニュースが入ってきました。
有機に関しては、故大西憲昇先生の愛弟子とまで言われながら、無機の炎色反応と周期律表を暗記するのが嫌だという理由で化学を捨てて物理に走った私ですが、この受賞研究がどのくらい寄与したかについては判ります。今回の3名の受賞は、どれも有機高分子化学の目玉の、たんぱく質の解析に関する発明・発見への賞与です。たんぱく質において重要なのは組成解析です。有機化合物は炭素と水素を基本に、それ以外の物質がくっついた形で存在しており、それぞれの原子の重さは異なります。よって重さが判れば、そのたんぱく質が何物なのか、ある程度推測できます。しかし、今回のノーベル賞受賞の研究以前は、たんぱく質1つの質量というのは(質量の小さい、単純なたんぱく質以外は)測定できなかったのです。もちろん、重さだけでは同位体などの判別はできません(不飽和度がわかっても二重結合なのか環状結合なのか特定はできないでしょ?)。そのため今回の賞にはたんぱく質の立体構造に関する解析法も含まれています。重さと立体構造が判れば、たんぱく質がどんな構成をしているのか、より特定できます。これが可能になったことで、人類はDNA解析から次のステップに行くことができるようになりました。DNAは御存知のとおり生物の設計図です。その設計図を元に生成されるのがたんぱく質ですから、DNAを解析しても、それによって作られるたんぱく質が判らなければ何が起こるのか検証しようがありません。逆に言えばDNAとそれによって生成されるたんぱく質が判れば、主に遺伝的要因を持つ病気(ハゲとか近視なんかも含む)に対する治療法が確立できる可能性が高いのです。そして、たんぱく質の働きがわかれば、そこから逆にDNAを特定することもできるという、いわゆる「逆引き」も可能になります。
今回の受賞は、かつて捨てた有機化学というものに対する私の興味を呼び覚ましてくれました。しばらく化学関係の本を読んでみようかと思います。


 

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