2002/01/22
本調理器具の科学の話2
続きです。保温調理器具が美味しく調理できる最大の理由が「味は冷めるときに染みこむ」という理屈ですが、これを証明する理論は、何一つ提示されていません。また、その文献を調べると「ぐつぐつ煮立っている間は味は染みこまない」とまで書かれています。
そもそも味が染みこむ道理は対流と浸透圧という簡単な原理で説明できます。温度が高くなると液体は対流現象というものを起こし、エントロピー増大の法則に従って、濃度を均衡に保とうとします。そのため煮立ったお湯に塩を入れれば、お湯のどこをとっても同じ塩分濃度になるのです。浸透圧の原理もエントロピー増大の法則によって説明できます。これは濃度の濃い場所と濃度の薄い場所を半透膜(水だけを通すような膜)で遮ると、濃度の薄い場所の水分が濃度の濃い場所へと移動し、濃度を均衡にしようとする働きです。野菜に味が染みこむのはこの浸透圧の原理が適用されます。何故なら、野菜は細胞壁という半透膜に近い物質(完全に半透膜なわけではなく、水以外の物質も通す)によって覆われており、この細胞壁内部の濃度が低いと水分が外に漏れ、均一になると細胞壁外部からの養分が流れ込みます。野菜を高温で煮こむとこの細胞膜が破れますから、早く味が染みこみます(その代わり繊維が崩れる)。よって「ぐつぐつ煮立っている間は味が染みこまない」というのは嘘です。ただし温度が下がるときに味が染みこむという話は理屈で説明できそうです。煮立った瞬間の野菜内部は、水分が最大膨張した状態で細胞壁の中に閉じ込められていると考えられます(水蒸気化しているかも)。細胞壁も膨れられるだけ膨れているでしょう。この状態で温度が下がると細胞壁内部の水分が縮小します。細胞壁の膨張率は水の膨張率よりも低いわけですから、細胞壁の内圧が下がれば外から養分を吸いこもうとします。これはぐつぐつ煮立てて細胞壁を破壊したとき(つまり水分が自由に対流できる状態)よりは効率は悪いかも知れませんが、細胞壁をそのままにした状態で濃度交換が可能となる方法と考えられます。
このように原理は説明できるはずです。にも関わらず説明していないのは何か裏があるからでしょうか。


 

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